【エール】セリフ書き出し23週111話|昭和27年「君の名は」が空前の大ヒット

朝ドラ【エール】23週111話、池田二郎作 連続放送劇「君の名は」が昭和27年に放送開始。当初は佐渡、志摩、東京の三家族を描く社会派ドラマのはずであったが…。

放送開始半年後に、主役級の夏川とロッパが体調を崩して出演できず、子どもたちもおたふく風邪に罹患して代役も見つからないという緊急事態。

そこで池田が急遽考え付いたのが、体が丈夫でスケジュール的にも問題がなかった氏家真知子と後宮春樹の「何度も何度も擦れ違う恋愛ドラマ」。

ラジオドラマの放送中に異例の映画化。こちらも大ヒット。岸恵子の真知子巻きをする女性で街はあふれ返りました。ラジオの放送がある木曜日の夜8時半には銭湯に女性客がいなくなるという逸話まで生まれました。そうこうしている間に華は無事に看護婦になりました。
ということで、明日には華のお相手の男性・霧島アキラが登場します。

【エール】23週111話セリフ書き出し

●NHK収録スタジオ

真知子役:「君の名は?」と尋ねし人あり。我は答えず 七年たちぬ。ふるさとの小川のほとりに立ちてその人を思えども 都は遠く佐渡は真冬なり。

アナウンサー:池田二郎作 連続放送劇「君の名は」。

昭和27年に始まる「君の名は」。伝説的ラジオドラマとして語り継がれる作品です。

アナウンサー:東京の中央部を襲った炎の波を逃れ逃れて真知子は数寄屋橋の橋畔である人に命を救われたのだ。

物語は戦争末期 東京大空襲から始まります。

真知子役:どこかのお方か存じませんけれど 何度も何度も危険なところを助けて下さってありがとうございました。

春樹役:さあ お父様やお母様たちが待っていらっしゃるでしょう。お帰りなさい。

真知子役:ええ…さようなら。

春樹役:あっ…君! だけど 今別れたらいつまた会えるかしれないね。

真知子役:そうですね。

春樹役:ねえ 君…僕たち…。

このあと 何度も何度も擦れ違う2人に日本中が熱狂することになるのですが 実は当初 作者の池田にそんなつもりはなく…。

半年前

池田:いくぞ。せ~の…えい! どこだ? …佐渡!

裕一:東京!

重森:志摩半島です。

池田:いいバランスだ~。よし 今回のドラマはここに住む3つの家族が主人公だ。 

重森:三家族同時にですか?

池田:そうだよ!やっとCIEの口出しがなくなって自由にドラマ作れるんだよ。なっ? 生まれも育ちも違うこの三者三様の家族…なっ? ありのままの戦後を描くんだよ。

裕一:うん…。

重森:三家族だと役者は3倍です。

池田:うん。

重森:スケジュールも複雑になるし予算も桁違いになります。

池田:だから面白いんじゃないか。

裕一:舞台それぞれの音楽も必要になりますね。

池田:もちろんだよ!佐渡には佐渡の 志摩には志摩の 東京には東京の音楽がある!さすが古山だ!

裕一:面白い!

重森:僕は真面目な話をしているんです。

(舌打ち)

池田:新しいことをすぐに否定する。NHKの悪い癖だぞ。こら。

重森:楽団の人は対応できるんですか?

裕一:いざとなったら僕がハモンドオルガンだけでやります。

2人:ハモンド…?

裕一:あれは実はいろんな音 出せるんですよ。例えばなんですけど…。

(ハモンドオルガンの音)

池田:おっおっおっおっ…アハハ!

重森:えっ?

池田:へえ! おっ!

重森:すごいな…。

裕一:面白くないですか?

池田:ああ!

重森:うん!

池田:よし 決定だ!

重森:えっ 決定?

池田:骨太な社会派ドラマを作るぞ!

こうして三家族を並行して描く画期的なドラマとして放送を開始した…はずだったのですか。

放送開始から半年

(ため息)

重森:ロッパさんは体の調子が悪いってあれほど言ったのに…。

●古山家・居間

(池田からの電話)

裕一:そうですか。はい 分かりました。すぐに行きます。はい。

音:どうしたんです?

裕一:夏川さんとロッパさんが病気で倒れたって。入院したらしい。

●古山家・玄関

裕一:池田さんが今 大急ぎで台本書き直してる。

音:放送まであと4時間。

裕一:あの人ならなんとかするから。行ってきます!

音:行ってらっしゃい。気を付けて。

裕一:あっ 華 お帰り。

音:お帰りなさい。

華:疲れた…。はあ…。

このころ 華は看護学校で実習の毎日でした。

●NHK収録スタジオ

裕一:池田さん どうですか?

池田:話しかけるな。今 いいとこなんだよ。あっ…前半の原稿だ。春日部さんにも見せて。何笑ってんの?

裕一:フフッ…何でもない。すいません。

池田:こんな時に。

裕一:すみません。

池田:この野郎が…。

裕一:春日部さん 前半部分 出来ました。

春日部:おお…。子どもたちの話を広げたのか…。うまいな。

裕一:いや~子どもが好きなんでしょうね。

春日部:その割には家族も持たず女はお盛んだけどな。はあ?「音もなくひらく玄関の音 ぬき足さし足しのび足」。音もしてないのに音って何だよ。

裕一:いや~これも大変ですよ。

2人:「惚れ薬を瓶から出す音」。

春日部:どうやって表現するんだよ これ。何だよ全くさ~!こういう時に…はあ~だから池田の仕事は嫌なんだよな~。

裕一:惚れ薬だったら…例えば ポンってこう栓が開いたあとに…。

(オルガンの音)

春日部:あるかも…うん あるかも!

裕一:本当ですか?

春日部:いや だったらあのさっきの音は?

裕一:う~ん…。春日部さn 扉が開く音を風で表現してもらって…。

春日部:あ~ 風?

(風の音)

春日部:いやいや あのさ でもさ ぬき足だぞ?小さなだろ。

裕一:いや 人って警戒してる時 足音大きく感じません?例えば春日部さんが飲み過ぎて深夜 奥さんを起こさないように帰ってくる時。

(きしむ音)

春日部:あ~これ ちょうっとのきしみが大きく聞こえんだよね!

裕一:いや~でも新しいものって ほら 無理難題から始まるじゃないですか。

(秒針の音)

(ドアの開閉音)

春日部:よいしょ…。

池田:よし…。遅くなった。すまん。

裕一:いいえ。まだ1時間ありますから大丈夫ですよ。

重森:お…おた…おた…。

池田:どうしたんだよ?

重森:子どもが…。

池田:はあ!? おたふく!?

(秒針の音)

(ドアが開く音)

重森:ほかの子どもたちの手配は…つきません。

池田:どうすんだよ?あ~もう!

重森:このままじゃ放送に穴があいちゃう。責任持って辞めます。

池田:バカ野郎 お前のクビなんかどうでもいいんだよ! 放送を楽しみにしている人たちを裏切るんだぞ!? そこを感じろよ! 

春日部:おい!どうすんだよ? あと30分だぞ!

裕一:池田さん。

池田:とりあえず あの~…スケジュールが確実で体が丈夫なやつ 誰だよ?

重森:春樹と真知子です。

池田:仕方ないな。2人に絞って話 進める。

重森:えっ? それで半年持ちますか? 時系列でいったら2人はもうすぐ会っちゃいます。偶然会った2人が再会するとなったら来週から先 困るのは目に見えてます。今日は休止して立ち直る手だてを…。

池田:駄目だよ~!駄目! 穴は絶対にあけられないよ!

重森:じゃあ どうするんですか!?

池田:会いに行くけど…会わない。

一同:えっ?

池田:擦れ違う。

裕一:えっ?

池田:いやいや…あの 2人とも会いに行くんだけど何か知らないけど会えない!切ないだろう?

重森:いや 一度はいいんですけど そのあと どうするんですか?

池田:いやいや もうそのころにはほかの連中も元気になて戻ってくるよ。

重森:ロ…ロッパさんはしばらく時間がかかります。それに…途中で三家族の話に戻すのも難しいかと…。

裕一:う~ん…。

池田:じゃあ いいよ もう決めたよ! もう何度も何度も擦れ違う!もう会わない恋愛ドラマ!画期的だろうが。よし どいて! いや~画期的だよ。ありえる? ありうるんだよ それが。画期的だよ…。男と女が出会わない恋愛ドラマなんて…。

重森は…。

重森:怒られる…。

間違っていました。

(風の音)

真知子と春樹に絞ったストーリーは空前の大人気となりました。

真知子役:自由倶楽部の編集部でいらっしゃいますか? そちらに後宮春樹さんという方が勤めていると思うのですか…。

(風の音)

真知子役:もしもし? 何ですって?

電話先の人:雑音が入ってよく分からないのですがね…。

ラジオドラマの放送中に異例の映画化。こちらも大ヒット。岸恵子の真知子巻きをする女性で街はあふれ返りました。ラジオの放送がある木曜日の夜8時半には銭湯に女性客がいなくなるという逸話まで生まれました。

真知子役:すみません。こちらに後宮さんという方が働いていると思うのですけど。えっ? たった今?

アナウンサー:真知子は春樹の姿を追った。

真知子役:後宮さん…後宮さん!

●古山家・居間

ラジオ「その日の神田は江戸一帯の名だたる大祭の一つ 日本三大祭り 神田祭の日であった」

音:ああ…。

華:また擦れ違うの?

●NHK収録スタジオ

当初 一年の予定だった「君の名は」は 更にもう一年続くことが決定しました。

池田:何か いいのかな? しかたなくやったことがここまでウケちまって。

裕一:ご苦労さまです。

池田:おっ おご苦労さん。

裕一:楽しくないですか?

池田:まあ ここまでの人気だ…。つまらないっつったら罰が当たる。

裕一:池田さん 僕 昔は自分の理想の音楽 目指してました。でも今は音楽に身を委ねてます。

池田:ほえ~ハハッ。あ~結局 人に新鮮な喜びを与えんのは神様の仕業ってわけか。じゃあ 一体 俺たちは何なんだ?

裕一:フフフフ…。

池田:何なんだってんだ!ハハハハ。あっ ちょっとこれ読んでみて。

裕一:「忘却とは忘れ去ることなり。忘れ得ずして忘却を誓う心の哀しさよ」。

池田:次から毎回 冒頭に入れようと思ってな。どう思う?

裕一:いや…グッと来ます!

池田:よっしゃ~。ただの擦れ違いのメロドラマだって言うやつがいてさ 癪だからよ…それでちょっと格調高くなるだろう。

裕一:そんなこと気にしないで下さい。池田さんはちゃんとすばらしい作品を作ってます。
池田:俺の作品じゃないよ。俺たちの作品だろ。えっ?

裕一:…はい!

池田:おう。あっ そうだ…ちょっといいもんがあんだよ。

裕一:えっ?

●古山家・書斎

音:万鶴屋の特選かすてら!

裕一:池田さんから番組延長のご褒美だって。

音:あと一年も聞けるなんて うれしい。

裕一:えっ そんなに?

音:だって面白いですも~ん! 頂きます。

真知子と春樹の切ない恋の物語は昭和29年4月 全98話まで続きました。この間 裕一が「君の名は」のために作った曲は500曲にも及びました。

●華が勤める病棟

華:今日は寒りなりそうなので毛布を持ってきました。

チエ:あら 華さんは気配りが利いて優しいね~。うちにもこんな孫が欲しかった。

そうこうしている間に華は無事に看護婦になりました。

(つづく)

●このセリフ書き出しは、聴覚に障がいのある方や日本語を勉強されている方々等の要望に基づいて行っております。
●字幕を追って書いておりますが100%完全ではありませんので、どうかご容赦下さい。●セリフに関してはその著作権等、一切の権利はNHKさんにあります。